2026.03/18
フルーレやサーブルの攻撃権は、基本的なルールは理解していても、「この場面はどちらがポイントなのか」と迷う判定に直面することが少なくありません。今回のアカデミアプログラムは、『攻撃権の判定の「迷いどころ」を読み解く』をテーマに、判定が難しいケースに焦点を当て、大久秀チーフコーチが、審判の視点からルールを整理しました。
プログラムの前半では、攻撃権の基本について簡単なおさらいが行われました。先に腕を伸ばしたり、足が加速したり、攻撃動作に入った選手に攻撃権が発生します。相手が同時に突いたように見えても、どちらが先に攻撃に入ったかを判断し、攻撃権を持つ側に得点を付与します。大久コーチは、「シムルターネ(同時攻撃)に見えても、実際はどちらかがコンマ何秒か早い。そこが見えるようになると、試合の見方が変わります」と説明します。
防御側は、相手の剣を叩く、払うといったパラードを行うことで攻撃権を奪い、リポストにつなげることができます。一方、攻撃を途中でやめたり、動きが明確に止まったと審判が判断した場合、その選手は攻撃権を放棄したとみなされます。この「止まったかどうか」は、いわゆる“フェンシングタイム”の中で判断され、最終的には審判の裁量に委ねられます。
続いて解説されたのが、違反行為と罰則についてです。フェンシングでは、プレイ中だけでなく、プレイ以外での態度や行動も厳しくルール化されています。
ピストを離れる、水を飲む、汗を拭く、剣を直すといった行為を許可なく行うとイエローカードの対象となります。また、剣を持っていない方の手で有効面であるメタルジャケットを隠す行為や、審判や相手への抗議も警告の対象です。
意図的な危険行為や電気審判機の作動を不正に妨害する行為はレッドカードとなり、相手にペナルティポイントが与えられます。さらに、装備の改ざんや故意の負傷、スコアシート改ざんといった重大な違反はブラックカードとなり、失格処分が下されます。
罰則や違反の詳細は、日本フェンシング協会や各団体が、ホームページ上で公開しています。

実際に会場で上映された動画の一部。どちらも、試合開始直後に攻撃をしている
講習の後半では、実際にクラブの子どもたちの試合動画を見ながら、「どちらがポイントになるのか」を参加者全員で確認しました。
判定の最大のポイントは、どちらが先にアタックに入ったかです。その判断材料として重要なのが、足と手の動きです。足が攻撃態勢に入り加速しているか、腕が先に伸びているか、相手の動きを待っていないか。審判講習用の動画では、アタックモーションに入る一瞬を繰り返し確認し、足と手の関係を丁寧に見ていきました。
足が動いていても手が止まっていれば攻撃とは見なされませんし、逆に手が明確に伸びていれば、足の動きが遅れても攻撃と判断される場合があります。「どちらも取れそうだ」と感じる場面こそ、審判の判断が試されるところであり、完全な正解が存在しないことも少なくありません。
動画解説の中では、保護者から「大会で判定に納得できず、子どもの気持ちが切れてしまうことがある」という声も上がりました。それに対し大久コーチは、「フェンシングという競技の特性として、難しい判定が起きることは避けられない。審判も人間であり、すべてを完璧に見切れるわけではありません。だからこそ、『分からない判定がある競技だ』という前提を持ってほしい。その一本で勝敗が変わることもありますが、それも競技の一部であり、時には運がなかったと受け止めることが、次の試合につながります」と説明しました。

審判ルールや攻撃権について学ぶ参加者のみなさん
また、接近戦についての質問も多く寄せられました。距離が詰まった場面で一歩前に出て突くこと自体は問題ありませんが、体を当てに行く、押しに行く動きは反則となり、イエローカードや場合によってはレッドカードの対象になります。
今回の講習を通じて繰り返し強調されたのは、審判の判定を理解しようとする姿勢の大切さでした。攻撃権の構造を知り、足と手を見る目を養うことで、選手としても、観る側としても、攻撃権の理解は一段深まります。
大久コーチは、「保護者のみなさんにも、審判判断を待たずに、選手と同じタイミングで一喜一憂してほしい」と言います。迷いどころを知ることは、フェンシングを観ることがより面白くなる第一歩です。次の試合では、ぜひ「審判の目線」で一本を見てみてください。
選手・保護者・コーチなどフェンシングに携わるすべての会員の皆さまに向けた座学によるスキルアップ・学びの機会です。
技術的な実技指導とは異なり、「戦術理解」「メンタル」「育成理論」などの観点から、フェンシングをより深く・広く捉える視点を養っていただくことを目的としています。