2025.10/24
2025年11月、バーレーンで世界ベテランフェンシング選手権が開催されます。MNHフェンシングクラブからは、計4名の方が日本代表として選ばれました。今回はその中の、黒田貴子さん、菊地恵子さんへのインタビューです。 ともに大人になってからフェンシングを始め、種目は「エペ」。計3回の選考会を経て、世界への切符を手にしたお2人に、フェンシングの楽しみや世界大会への意気込みをお話いただきました。

/// フェンシングとの出会いとこれまで ///
黒田貴子さん(以下黒田さん):もう4年前になりますが、友達に「フェンシングクラブの体験会にいかない?」と誘われたんです。もともとやっている乗馬が屋外スポーツで、天候に左右されることもあったので、「屋内スポーツならいいかな」と。家も近所だったので、軽いノリで参加してみました。
菊地恵子さん(以下菊地さん):実は息子が小学生の頃に、一時期フェンシングを習っていたんです。すごく興味があったわけではないものの「カン、カン!」と剣がぶつかる音が何となく好きだったんですよね。直近では2年前に、今度は孫にフェンシングをさせようと、このクラブに見学に来たんです。それなのに自分がやりたくなってしまい、結果、ハマってしまいました(笑)。
———当クラブに入られて、どんな印象でしたか?
黒田さん:親しみやすい雰囲気がいいなと思っています。ヒエラルキーがある、いわゆる“スポ根的なクラブ”もある中で、大人に向けた女性限定のクラスがあるのも良かったですね。コーチもマイルドな感じで教えてくださり、相談もしやすく、続けやすかったです。
菊地さん:私も黒田さん同様、以前は乗馬クラブに入っていたのですが、そこの雰囲気が好きでして。このクラブも同じような「ゆるさ」を感じたんですよ。勝ち負けだけではなく、単に好きで始めた私のような会員でも受け入れてくださり感謝しています。黒田さんのような友達もできて、日々楽しく練習してます。
———世界ベテランフェンシング選手権大会(以下世界ベテラン)は、今年から初めて40代の区分ができました。お二人はこれまでに試合に出られたことはありますか?
黒田さん:入会して1年後位に、世田谷区民大会に出場し、そこから定期的に出ています。最初はボロボロの成績だったんですが(笑)、この歳になって始めたスポーツで大会にまで出られ、他のクラブの方と正式に戦えるというのが、率直にとても嬉しかったですね。
また世界ベテランは、おっしゃる通り、自分の年齢的に今年から参加資格が得られ、3回にわたるベテラン選考会を初めて経験しました。
菊地さん:私は乗馬をやっている時に「障害馬術」の試合に出ていました。気楽に参加していた割には、ウマは順位もそこそこ付くんですよ(笑)。
一方でフェンシングは点がきちんと付いて、シビアな世界。でも、緊張することはあっても「楽しもう!」という感じで臨んでいます。試合としては、2024年12月の大会を皮切りに今年はローカル大会、そしてこのベテラン選考会にも出場しました。
/// 選考の過程で ///
———黒田さんは、お仕事との兼ね合いで葛藤もあったとか。
黒田さん:ネックはやはり、練習時間でした。練習量と線形に実力がつけばいいのですが、実際は“階段状”。成果が現われない時が続き、ある時ちょっとだけ上手くなって、みたいな。
若い頃のように底抜けに体力があるわけではないし、あまりハードにやると故障が出てきかねない。だから仕事に支障が出ないように、折り合いをつけながらやっていましたね。
———選考においては、3回の選考会での獲得ポイントで、ランキングが決まりますね。
黒田さん:はい。一回一回「世界ベテランに行けるかな、行けないかな?」とドキドキしながら試合に臨んでいました。気持ちの浮き沈みもあり、乗馬友達に「フェンシングとどう向き合っていけばいいのかわからない」と愚痴をこぼしたこともあります(苦笑)。
実は、1回目の選考会の時は、自分的には微妙なランキングだったので、2回目は申し込んでいなかったんです。ですが、その1回目の試合後に菊地さんに誘われて、喫茶店でお茶をしたんです。その際、菊地さんから「2回目も出なさいよ!」と言われて……。
迷っていたものの「背中を押してくれる人がいるなら、がんばってみよう」とやる気になりました。それで帰宅して2回目の選考会申し込みに、ネットでポチっと。菊地さんに「申し込んでみた!」とラインしたんです(笑)。
———結果、快勝を収められました。
黒田さん:ありがとうございます。おかげ様で苦労が報われました。行きはどんより、帰りはスキップ、みたいな(笑)。ちなみに、選考会に一緒に出た方とお友達になり、新幹線の中で楽しくおしゃべりしながら帰りましたね。その後、3回目の和歌山の選考会もなんとか切り抜け、世界ベテランに出られることになりました。
———菊地さんは、今回の選考会に出るにあたってプレッシャーはありましたか?
菊地さん:もちろん自分のレベルが思うように上がらないジレンマは、常に抱えています。一方で、大人になって始めたことだし気楽にボチボチやっていこう、と肩を抜く自分もいたから、ここまで来れたのかな、と。
それと私は、試合に出ること自体は全然苦ではないんです。
ここに至るまでに、世界ベテランの代表の合宿にも参加してきましたが、合宿や試合で地方に行って、その土地の美味しいものをいただいたり、いろいろな人とお話したりするのが、とても楽しいんですね。
/// 世界に向けて ///
———選考会を経て、晴れて日本代表に選ばれました。何か準備はされていますか?
黒田さん:練習量を増やしている一方で、焦りは禁物だと思ってます。ここから新しいフォームや技は入れることはせずに、最初のオンガードの姿勢を見直すなど、基本に立ち戻っていますね。
余談ですが、フェンシングをやっていることを、これまで職場では内緒にしていたんです。でも今回休みを取らないといけないため、ついにカミングアウト。みんなびっくりしていて、部下が「黒田さんの右腕の、謎のあざの合点がいきましたー!」と(笑)。
菊地さん:私は去年末からスポーツジムに通って、体幹づくりに励んでいます。練習では頭を使うため、すごく疲れますが、体と相談しながらマイペースにやっていますかね。
それと、コーチは敵のポジジョン(向かい合わせ)でアドバイスをくださるんですが、向きが反対なので、たまに混乱するんですね。なので、家でお箸を交差させながら、復習しています(笑)。
———世界大会への意気込みはいかがでしょう。
黒田さん:私にとって「ジャパン」の名前を付けて世界大会に行けること自体が、とても嬉しいです。一方、合宿の際にコーチから「40代は今までやっていないから、どんな人が来るのか予想はつかないけれど、おそらく強い人が出るに違いない」と聞き、身が引き締まる思いです。
少なくとも、ヨーロッパ勢とは身長差があると思うので、なんらかの対策は取っておこうと考えています。ただし、行くからにはやはり爪痕は残したいな、と。まずは1勝を目標にしたいと思っています。
菊地さん:私もなんとか1勝を、ですかね。あとは世界のフェンサーが、どういう戦い方をされるのか……この時とばかり勉強してきたいですね。
それと、昨年の世界ベテランに出場した選手の動画なども見てみたんです。エペのルールは単純明快ながら、最後まで取っては取られの“シーソーゲーム”なんだな、と実感しています。だから終わりまで諦めずに、ねばりたいですね。
/// これから始める人へのメッセージ ///
———当クラブにはいろいろな年代の人がいらっしゃいます。楽しみながら続けるのが一番だと思いますが、世界舞台への道があると思うと、新たな夢が拓けますよね。
黒田さん:そうですね。スポーツにおいて「日本代表」という肩書きで、海外まで行って試合をするなんてことは、普通の方の人生設計の中にないと思うんです。 ただし、まだ競技人口の少ないフェンシングの場合は、そのチャンスは、なくはないんです。
世界の舞台に立てるということは、人生において貴重な経験だと思いますし、きっとプラスになると思います。もし興味がある方がいらっしゃったら、積極的に参加して欲しいな、と思います。
菊地さん:私の同世代の友人は、股関節や膝の手術をしている人も多いんですね。また、この歳になると「動きながら頭も使うといい」と言われますが、階段を昇り降りしながら、ひたすら九九をやっても、つまらないでしょう(笑)?
その点フェンシングは頭もすごく使いますし、やっていてとても楽しいですよ。だから、身体に痛いところがない人は、ぜひフェンシングをやってみて欲しいですね。
世界に挑戦できるのはもちろん嬉しいですが、個人的にはあまり勝ち負けだけにこだわらずに、フェンシング界の “ハルウララ”をめざして(笑)マイペースに続けていけたらいいな、とも思っています。
———お二人のご健闘を心よりお祈りしています。どうもありがとうございました!

MNHフェンシングクラブ
東京都調布市調布ヶ丘1-34-1