2026.01/05
選手や保護者に向けて、座学でフェンシングの技術や知識についてお伝えするアカデミアプログラム。第4回を9月28日、MNHフェンシングクラブで開催しました!
ロンドン五輪男子フルーレ団体銀メダリストの三宅諒さんの保護者と選手のための戦術論の3回目になります。今回は、フルーレの「プレパレーション」をテーマに講演を行いました。フェンシングで勝つための攻撃、反撃、防御について、独自の理論で徹底的に解説しました。
三宅さんが最初に提示するのは、驚くほどシンプルな原則です。
「フェンシングで一番大事なことは、突くこと」。デガジェ、ユヌドゥ、マルシェ・ファンデブ——練習メニューは多彩でも、結局は“突くため”にやっています。動きが「突く」につながっていないなら、それは正しくありません。逆に「突く」につながっているなら正しい。この基準が、複雑な局面で迷わないための軸になります。
そして、突くことと同じくらい大事なことが「突かれないこと」です。三宅さんは「負ける時は突かれているから負けます。勝つ時は突くから勝つんです」と言い切ります。慣れてくるほど、この当たり前を忘れてしまうといいます。試合の途中で判断が遅れる、攻めが雑になる、足が止まる。その背景には、「突かれないための選択ができていない」ことが多いと三宅さんは言います。
この“突かれない”を支えるキーワードとして、三宅さんはロンペ(後退)を挙げます。失点の多くは「ロンペの欠如」から起きます。前に出ながら何かをしようとした瞬間、ロンペは選べなくなります。だからこそ、プレパレーションを語る前提として「ロンペができない時間帯をどう設計するか」を理解しておく必要があると指摘します。
三宅さんは、プレパレーションを「アクション(最終的に突く行動)を行うための準備動作」と定義します。ここで重要なのは、「前に出ること=プレパレーション」ではないという点です。前進しただけでは相手を突けません。“なぜ前に出たのか”を説明できない前進は、準備のつもりでいても中身がないのです。高校生のインターハイレベルの試合ですら、この「準備のつもりの前進」がミスを生む場面は少なくないといいます。
プレパレーションの目的は、最終的に突くことにあります。さらにフルーレでは、ピスト上の位置関係が効いてきます。三宅さんは「相手をエンドライン際まで追い詰めたい」と言います。逃げ場がなくなれば、相手の防御や反撃は制限されます。防御や反撃が制限されれば、こちらの攻撃が成立しやすくなります。
ここで三宅さんは、プレパレーションの本質を別の角度からも説明します。「フルーレは、自分が優先権を持っている時に、どれだけ自分を突いてもらえるかのゲームなんです」。ロンペする相手を追いかけるのは不利です。チャンスは相手が動く(あるいは前に出てくる)瞬間です。相手が止まる・前に出る・下がり遅れる——そうした状態を引き出すことが、プレパレーションの価値になります。
そのうえで、三宅さんは独自の理論でプレパレーションを二つに分けます。
攻撃的プレパレーション:相手をエンドラインに追い詰める、またはコントルアタックを誘発する方向へ進める。
反撃的プレパレーション:コントルアタック、プリーズ・ド・オフェール、パラード・リポストといった反撃を打つために相手を呼び込む準備をする。
一般的なプレパレーションは攻撃側の動作ですが、三宅さんは、いわゆる防御側が反撃を待つ動きもプレパレーションだといいます。防御としてのロンペは「やられないため」ですが、反撃のための“呼び込み”は攻防の一部であり、次の突きへつながります。ここを混同すると、逃げているのに反撃したつもりになったり、反撃したいのにただ下がって終わったりします。三宅さんは「攻撃・反撃・防御の三つを、プレ・アレの瞬間に選べることが能力」と語り、まず行動原理を整理するよう促します。

プレパレーションが崩れる典型が、三宅さんの言うオーバープレパレーションの瞬間です。近づきすぎる、マルシェが大きすぎる、無理に詰め続ける——こうした“過剰な準備”は、コントルアタックの格好の餌になります。本人は頑張っているのに、点が取れない。強豪と当たると「どうやって勝てばいいの?」となる。その原因の多くは、技の種類ではなくオーバープレパレーションにある、と三宅さんは断言します。
もう一つ、三宅さんが独自に名付けたのが「ブラインドプレパレーション」(通称:ゾンビ・プレパレーション)です。すでに機を逃しているのに、いつまでも準備動作を続けてしまう状態を指します。相手に剣を叩かれたのに止まれない、相手が崩れているのに打てない、「まだプレパレーションしなきゃ」と動き続けてしまう。

では、どう直すのか。三宅さんが提示した答えが「相手の反応を限定する」発想です。いろいろな攻撃パターンを増やすよりも、「相手が取り得る反応」を想定し、それに即したアクションを準備します。三宅さんはこれを「7分岐」としてまとめました。プレパレーションから先に起こることは、現状この七つにほぼ収束するといいます。「入り口は同じでいい。大事なのは相手の反応に対応できること」と三宅さんは言います。漢字の書き取りや計算問題のように、見た瞬間に答えが出るまで反復するのがトップ層の土台だといいます。
さらに三宅さんは、プレパレーションを始めたなら「突きたい場所があるはずだ」とも言います。下がり遅れが起きて絶好のチャンスが来たなら、素直にそこを突くことが大切です。反応が起きたら分岐に沿って切り替える。何も起きなければ、そのまま狙いを突く。こうして“判断の道筋”ができると、オーバープレパレーションにもゾンビプレパレーションにもなりにくいといいます。
選手・保護者・コーチなどフェンシングに携わるすべての会員の皆さまに向けた座学によるスキルアップ・学びの機会です。
技術的な実技指導とは異なり、「戦術理解」「メンタル」「育成理論」などの観点から、フェンシングをより深く・広く捉える視点を養っていただくことを目的としています。